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秋篠寺、唐招提寺、薬師寺【奈良「古の日本」を旅する(前編)】

日本の原点ともいえる奈良の風景が失われてしまう前に…

大池越しに見た薬師寺の伽藍

(写真:大池越しに見た薬師寺の伽藍。現在、薬師寺東塔は解体修理中)

2006年のゴールデンウィーク、奈良を旅しました。日本の原点ともいえる奈良の風景が、近代化の波で失われてしまわないうちに、この目で見ておかなくては、との想いからこの旅行を計画しました。

私はどちらかというと電車やバスでのんびり……という旅が好きなのですが、あちこち飛び回るのでマイカーを利用しました。早朝東京を発ち、東名、名神、京滋バイパスを乗り継ぎ、約6時間かけて奈良に到着。

このまま車で観光を続けるのはしんどいので、車をホテルの駐車場に停めて、探索の旅へ出発します。

美しい仏様に会いに-秋篠寺-

近鉄電車に乗り、大和西大寺駅(近鉄奈良から2駅目)で下車。改札を出て右手のレンタサイクルセンターで自転車を借り、まずは秋篠寺に向かいます。

「秋篠の里」というしっとりした言葉の響きから、美しい山里をイメージして寺への道を進みましたが、実際に行ってみると、付近に競輪場があったりしてイメージと違うなと思いました。

しかしながら、お寺の境内に一歩足を踏み入れると、境内は決して広くはありませんが、外界とは違った静かな別世界が広がっています。

この日はカラッとした晴天でしたが、雑木林の根本に美しい苔の絨毯が広がっていて、雨後はさぞかし綺麗だろうなと想像しながら本堂に向かいます。

国宝に指定されている秋篠寺本堂

(写真:国宝に指定されている秋篠寺本堂)

本堂も美しい建物ですが、お目当ては本堂の中にいらっしゃる「技芸天立像」。

美しい天女の像は、作家の堀辰雄が"東洋のミューズ"と賞賛したことで知られます。「衆生の吉祥と芸能を主宰し諸技芸能の祈願を納受したまう」とのことで、古くから芸術家や文芸家の厚い信仰を集めています。

半開きの目や微笑みを湛(たた)えたやや厚めの唇など、いかにも女性的な表情もよいのですが、首をかしげた立ち姿の美しさが、この像の人気の所以(ゆえん)でしょうか。

天平の甍-唐招提寺-

さて、秋篠寺を後にして、いったん大和西大寺駅まで戻ります。大和西大寺駅の東側は平城宮跡の野原が広がっており、巨大な朱雀門が復元されており、大極殿も復元中です。

ここから秋篠川沿いに整備された自転車道を南下し、しばらくすると右手に唐招提寺の境内が見えてきます。

唐招提寺は聖武天皇の招きに応じて戒律を伝えるために来日を決意し、5度の航海失敗の後、ついには両目を失明しながらも奈良にやってきた唐の高僧・鑑真(がんじん)和尚の寺として知られています。

鑑真和尚の故郷、中国揚州の花、瓊花(けいか)

(写真:鑑真和尚の故郷、中国揚州の花、瓊花(けいか))

"天平の甍(いらか)"として有名な金堂は、平成21年まで解体修理中でその威容を見ることができず残念ではありましたが、講堂や新宝蔵で奈良時代の貴重な仏像を拝観することができました。

薬師寺の"凍れる音楽"

次は、お隣の薬師寺に向かいます。薬師寺といえば「東塔」と「西塔」という2つの塔が並び建つ姿が印象的ですね。

東塔は、薬師寺で現在も唯一残る「白鳳時代」の建築。裳階(もこし)という小さな屋根が付いている為、一見六重に見えますが、実際は三重塔。調和のとれた美しい姿は、"凍れる音楽"とも評されてます。(東塔は平成21年より解体修理に入り、平成32年、完了予定です)

"凍れる音楽"とも評さる薬師寺の東塔

(写真:"凍れる音楽"とも評さる薬師寺の東塔)

これに対する「西塔」は、昭和56年に再建。建物自体の重量による沈下や木の縮みを計算し、東塔よりもやや高めに建てられています。

長い年月の風雪に耐えた東塔と再建されたばかりで煌(きら)びやかに彩色された西塔。

印象的な対をなす2つの塔ですが、恐らく数百年の後、いや、もしかすると数十年の後には、西塔も色が剥げ落ちて現在の東塔のようになり、古寺を形成する文化財になっているのだろうなと思いました。

薬師寺に来て何はさておき拝観しなければならないのは、金堂の本尊「薬師三尊像」。

奈良にくると薬師如来の像が非常に多いなと感じますが、それだけ当時、健康への願いというものが今以上に切実なものだったのでしょう。中でも、薬師寺の像はとりわけ美しいですね。

中央の薬師如来像も美しいですが、両脇の日光菩薩、月光菩薩がとても美しい。パレオを纏った女性のようで、腰をキュッと捻った姿は官能的ですらあります。

薬師寺のお坊さんの話ですが、岡倉天心は「薬師寺の薬師三尊像をまだ見てない人は幸せだ。始めて見た時の感動をこれから味わうことが出来るのだから」と語ったそうです。

だんだん年齢を積み重ねるに従って、頭で美しいと思うことはあっても、心で直に「感動」することは少なくなってきますが、この像の美しさは、一瞬我を忘れて恍惚とした気持ちにさせてくれます。

このような優しく美しい姿の仏様を見ていると、医学が直接的に病気を取り除くものだとすれば、宗教とは本来、精神に潤いや癒しを与えることで人々を元気付ける、そういう役割があるのかなと思いました。

また、薬師寺では丁度、秘仏特別公開が行われていました(春季4/29~5/5 秋季10/8~11/10)。展示物の中でとくに印象的だったのが、「吉祥天画像」。唐風の衣を纏(まと)った天女が歩む姿を精緻に描いた素晴らしい絵ですね。

薬師寺の拝観が終わった頃には、すでに夕方になっていました。帰途、秋篠川の川べりから東塔と西塔が並び立つのが見えたとき、「ああ、これが奈良の景色だな」と思いました。

中編に続く

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